2009年度 宮之浦川遡行
文:伊佐見
期間:10月31日〜11月3日
山域:屋久島
参加者:伊佐見(3)、渡辺(OB)

10月31日
晴れ
潜水橋13:29〜ナベカケ沢出合より少し上流のテーブル状岩15:16〜就寝19:00
 前日、飛行機で渡辺さんが鹿児島に来られる。22時半ごろに渡辺さんと僕は部室で顔を合わせ、少し飲むことにする。1年の溜島もいた。12時過ぎからバイト終わりの宮原さんも合流。盛り上がる。1時ごろに伊佐見はダウン。勝手に寝だす。宮原さんと渡辺さんは3時半ごろまでキャンパしたり、歩荷マンを担いでみたり、えらく盛り上がっていた。
 当日、5時半に起きる。溜島と渡辺さんが寝ていたが、肝心の渡辺さんがなかなか起きない。滅茶苦茶な言葉の寝言を喋りだし、もう駄目かと思ったが6時ごろなんとか起き上がったので急いで市電に乗り込む。見送りに来た溜島の方が渡辺さんよりはるかに元気だった。市電が「いづろ」に着く。7時のフェリーに間に合わせるため乗り場まで激走。「すぐ乗ってください!」と切符売り場の女性に促され、フェリーに乗り込み、高田から貰ったチョコを馬鹿食いして爆睡。途中、渡辺さんがフェリー左後方に見える佐多岬を指差して「屋久島だ」と言っていたので、「あれは佐多岬ですよ」と訂正したら、関節技をかけられた。
 宮之浦港に着く。渡辺さんの正確な記憶はここから始まる。タクシーで宮之浦川に沿った林道を走る。「工事中通行禁止」の看板も運転手さんに無視するよう強いた。1時間乗ってから歩く。渡辺「いやぁ、まだ屋久島は夏やのぉ」じっとり汗が出るくらいまだ暑かった。
 潜水橋に着く。でかい土管がコンクリート橋の下に埋設してあり、そこを水が流れている。下流にはワイヤーだけが残った吊り橋が見えた。今日は行けるだけ進むことにする。下流は沢が広く、美しい。しばらくすると右岸側に岩峰が見える。どうやら上流左岸に出合うナベカケ沢のそのまた上流の坊主岩のようだ。沢が大きく曲がりくねっているのがよく分かった。ナベカケ沢に出合い、タープを張るところを探す。ちょっと上流まで登ると広く分かれた沢の一番右岸よりに平らな巨岩を発見し、タープ設営。晩飯は持ち寄った食材で鍋をした。溜島の差し入れのハンバーグ、マシュマロがおいしかった。

11月1日
降ったり止んだりの雨のち増水
起床4:00〜発6:24〜マンベー淵7:22〜第一巨石7:26〜第三巨石7:36〜白糸の滝8:17〜竜王の滝9:41〜左岸チムニー登攀開始10:00〜竜王の滝左岸尾根上15:30
2時頃雨が降ったような気がする。起床時も雨が降っており、タープから雨水がポツポツと滴ってきて、渡辺「なんでこんなタープを持ってきたんだ!」と怒られる。確かにタープのつなぎ目らしきところのセロハンテープみたいなものがはがれてきて水が漏れている。降雨時のタープってこの程度じゃないのか?
ラーメンを食った後、シトシト雨の中、カッパを着て出発。5分ぐらいで伊佐見がぬるぬる岩をマントリング中滑って水中に落ち、早くも全身ずぶ濡れになる。しばらく進むと前方に岩の壁が見える。マンベー淵だ。近くで見ると岩壁は傾斜の緩い上部から垂直に流れ落ちているようである。草付の生えていない岩肌は何の形状もないツルツルスラブ。威圧感で圧倒されそうだった。
第一巨石はそのマンベー淵に入るとすぐ見える。ここは岩の右下に隙間があり、くぐって攻略。スケールがあり、楽しい。第二巨石は第三巨石より小さく、気づかず通過。第三巨石を左からフリーで攻略しようとするときに気づく。第三巨石は右岸との間をフリーで登る。登り口にはぼろぼろハーケンに荷造り用ビニールテープが巻かれてフィックスされてあった。なんじゃこれ。トップの渡辺さんはカラビナ、スリング、ビニールテープなど汚い残置が多いので不満そうであったが、個人的には体を突っ張るムーブや抜け口の邪魔な岩を避けるのが新鮮で印象深かった。
三大巨石を越えると左から白糸の滝が出合う。だらだら流れてくるのでとても白糸には見えず、スルー。少し先で左岸を捲く。一部草つきが剥げたのか、岩が露出している部分があり、8mほど懸垂&トラバースで解決。捲きを終え、ゴルジュで糞詰まった巨石を越えてゆくと轟々と滝の音が近づいてくる。竜王の滝だ。興奮して写真を取りまくったので近くに寄るまでにしばらく時間がかかる。近くで見ると滝の下の大淵のエメラルドグリーン、水面を走る飛沫、周囲の岩壁の茶黒色が合わさって凄まじさが際立っていた。ここで鹿大山岳部の伝統らしいので手を合わせて南無さんポーズで写真を撮る。雨が降っているので上半身は脱がず。
気分を良くして左岸の「コケびっしりチムニー」を登りだす。まずトップは渡辺さん。最初が遠いので右の別のクラックから取り付こうとするが、返って悪くセオリー通り直登する。1つ目のチョックストーン(CS)ではしっかり支点を作っていた。それからさらにザイルは伸び、しばらくして笛でビレイ解除の合図が聞こえてきた。仕度をして自分も登りだす。出だしは上から伸びてきたチムニーが下で2つに別れているので、右側の木に乗りながら登り、CSまで楽勝で登る。CSの左の壁にはハンガーが打ってあるが今回は支点として使われておらず。乗り越すのはCS右に生えている木を掴んで越えた。その後チムニーは2つに分かれていたが、ザイルに従い左を進む。ちょっと悪かった。上にはかぶり気味のチムニーがあり、ここでピッチを切って渡辺さんが登る。このチムニーがかなり難しく、登り疲れた渡辺さんがロワーダウンし、僕と交代する。右の壁に背を貼り付けながらジリジリと体を上げ、上部のかぶり気味の狭いチムニーで背の向きを変えようとして不意にフォール・・・と途中で体が止まる。渡辺さん曰く「ほとんどテンションが無かった」らしく、どうやら体がチムニーにチョックした様だった。一度落ちるとなぜか登攀に勢いが付く。核心の時計回りに体を反転させる所は右手を奥の泥の詰まったガバへぶち込んで左手も奥のガバを持つと楽だった。反転後は危ういスタンスとチムニー内のフレークを使って上に出た。登った後は嬉しさで調子に乗ってしまい、荷揚げを忘れるなどのドジを踏む。ちなみにこの頃に増水がはっきりしてきて、登ってきたチムニーの1ピッチ目が別方向からの流水で滝になってくる。3P目は1P目と同様に荷物を背負って攀じる。トップの渡辺さんが長く登っていたので、どうしたのかなぁと思っていたが、いざセカンドで登ると狭いチムニーが長く続き、いわゆる「奮闘的な」というものがこんなにも疲れるものなのかと思わされた。あまりに奮闘しすぎてザックに穴が開いてしまった。トホホ。4P目は結構左へ寄ってから残置スリングの巻いてある木を越えて、さらに上へ向かう。これは簡単だった。
そこからしばらく歩き、この尾根上の平坦そうなところでビバークとする。雨はほとんど止んでいたが、増水が収まらない。焚き火で体を乾かし、α米と味噌汁と渡辺さんの隠しレーションでマッシュポテトを作って食った。マッシュポテトがかなり旨かった。夜はタープとツェルトを設置して就寝。一晩中竜王の雄叫びが聞こえていた。

11月2日
曇り時々雨のち寒波
発7:00〜F14 8:41〜F17出合9:30〜F17を越えて本流に戻る9:50〜大高捲き開始14:00頃〜大高捲き終了15:30頃〜ビバーク17:00
 寝不足気味に起床。ラーメンを食って水を汲みに行くが、昨日の水場に流水が無い。竜王の滝を見ても明らかに減水していたので出発することにする。尾根を越えようと登りやすい所を探すが、岩や泥崖にぶつかり、行ったり来たり。結局まっすぐ登るのが正解でスリングを巻いた木を発見し、ここから支流まで2回懸垂する。降りきると支流が本流の淵に出合っているのが間近に見えた。20mほど下って本流に戻るとF14滝がずどんと落ちてきている。下流は龍王の滝で、2段目の落ち口が見えるが,高度感と誤って滑り落ちる自分を想像してしまい、恐くて近づけなかった。
 しばし休憩した後、対岸のガレ場を登り、右へ高捲き。一部、外傾した岩の上を歩く所もあったが、大半は平坦で落ち葉が積もっていた。F15を過ぎて、平べったいピナクルにスリングが残置してあるところで一度降りて、沢に戻りすぐにまた捲きが始まる。捲き始めに大きな岩があり、岩の沢側を通ったが、高かったので滑ったら危なかった。F16を越えて沢に戻ると、本流が右に90度(以上に見える)曲がり、F17が落ちてきている。上流のゴルジュが深いので暗くみえる。この時頃、下流より冷たい風が吹き出す。ここからまっすぐ支流を少し登り、右側に注意しているとガレ場があり、上部のブッシュの薄さからコルと判断し詰める。コルには3人ほどの平らなスペースがあった。
 ここから一度沢まで下り、すぐにまた右岸を捲く。疎林なだけましだが、めんどくさい。遡行図に載っているような支流3段の滝にぶつかり、懸垂。そしてまたすぐに高捲き。沢に戻ると右手にのっぺりスラブの大岩がある。渡辺「俺のステルス・ラバーなら登れる」と言っていたが、こちらの磯靴では登れないので右から登って解決。またまた左岸を捲き、F26やその他の滝を越え、その先はしばらく歩く。チムニーやルンゼが対岸から出合っているのだが、遡行図より数が多い。よう分からん。しばらくすると屋久島らしい緩傾斜の黒いスラブが右手に見える。でかい。
 F32が見えるところまで行くと、大高捲きが始まる。左岸の草付に取り付くが、大きな植物がセロリみたいな奴しかない。渡辺さんは先にヒョイヒョイ登ってしまったが、僕が掴むとポキポキと軽快な音が鳴って簡単に折れる。なんじゃこれぇ。なんとか追いついたところの岩にはハンガーが打ってあり、ザイルを出して登る。ビレイ中は下流からの風でかなり寒い。登っていても草を掴むと寒くて徐々に手の感覚が無くなる。1ピッチ登ってから支流の沢で水を汲み、藪こぎに入る。ヤクザサが密集してかなり進みにくい。沢の方は霧が出てきており、よく見えない。獣道伝いにひたすらひたすら藪をこぐと広い支流に出合った。大いに疲れたが、永田川源流でむちゃくちゃ藪こぎして永田岳U峰へ出たときが思い出されて懐かしかった。
 この時15:10ほどであったと思われるが、先に進みたくなり、支流を下る。現在地を把握する。左右に沢が分かれているが、一度右の沢へ入り、間の藪を左へトラバースする。その後は3mほどの滝ばかりなのでほとんどを直登。行動時間が迫っていたので良いビバークサイトを探すが見つからず、17時になり雨が降ってきたので右岸の平らそうなヤクザサの上にツェルトを張る。そうこうしているうちに雨はもっと強くなり、びしょぬれになってツェルトに転がり込む。外よりはマシだが、それでもめちゃくちゃ寒い。ラーメンを食べ、固くなったマシュマロを馬鹿食いして、ダウンを着て寝た。深夜、ツェルトと接している左半身が濡れて寒く、何回か起きた。体を震わせると温かくなり、「人間ってすげぇ」と思いながら何度か浅く寝た。
11月3日
霧のち快晴
発6:30〜永田岳−宮之浦岳間の登山道8:50〜永田岳9:44〜鹿之沢小屋10:53〜永田歩道入口15:24
 深夜2時ごろからちょっとずつ食事を開始する。渡辺さんにスルメやカイロを貰った。と、徐々に尿意を我慢できなくなる。それでもタープから出たくはなかったので、ビニール袋に小便をする。「こぼしたら渡辺さんはどんな風に怒るかなぁ」と想像し、緊張した。2回ほど採尿。尿はじんわり暖かかった。6時ごろ、薄暗い中嫌々ツェルトから出る。スリングが凍り、タープの上にも氷が乗っている。冷たいのを我慢して撤収。渡辺さんのスリングが1本消える。ダウンを着たまま出発する。
 ビバーク地点から沢が2つに分かれており、右の沢へ迷い込んだが、気づいて左の沢を遡る。大きくても5mほどの滝ばかりだが、何度も出てきてうんざりする。周辺のヤクザサは凍って、えびの尻尾が付いている。ついには凍ったヤクザサを持ってヤブコギしなければならなくなる。素手だったので手が赤くむくんで、感覚がなかった。そのまま「まるで冬壁やぁ」とかいいながら、ガスで前が見えない中を進んでいくと、ヤクザサ帯が徐々に平坦になり、やっとこ登山道に出る。渡辺さんと成功を喜ぶ。宮之浦岳はガスで見えないが、そちらから登山者の声が聞こえてくる。渡辺さんに「どうする?ピーク(宮之浦岳)は?」と聞かれたが、下山道(永田歩道)と反対側の宮之浦岳を登るなんて思いもしてなかったので驚き、嫌がる。何回も登ったので宮之浦岳に執着も無かった。しかし、永田歩道へ向かっているついでに永田岳のみ登る。晴れてきて白くなった宮之浦岳を見ると気分が良かった。
 ここから鹿之沢小屋まで下り、少し休憩の後永田まで一気に下る。むちゃくちゃ速かったが、最後の下りが急になってきたところで渡辺さんに差をあけられる。沢靴を履いていたせいで爪が半分めくれていた。
 永田からはビールを飲んで、鍋をしで、公園で泊まり、翌日のフェリーで鹿児島に帰った。

反省
沢の中では早めに幕営地を決める。欲を出して「もう少し先へ」と考えていると、案の定痛い目にあった。これってよくある話だよなぁ
騙し騙し登るのが下手だった。
判断等、渡辺さんに任せきりになってしまった。
タープ、ツェルトなどの装備を使う機会をあまり設けなかったので、実践的な考えが足りなかった。
軍手の指先を切ったものは便利そうだった

感想
 充実した沢登りだった。捲きが多かったり、屋久島セロリ(?)、ササが凍っていたり、半身ずぶ濡れになったりしたが、「思い出すとわくわくする」、そんな僕の最も志向(嗜好)したい山行に近かった。やっぱり僕は景色に興味を持ったりすることがあまり無いようで、竜王の滝もそれほど印象に残っていない(ただマンベー淵のベロローンと落ちてきている岩壁には感心した)。
 また渡辺さんに判断を任せきりになってしまったので、自力で登ったと言い難い。自分ならルートファインディングにもっと時間がかかってしまったのではないだろうかとずっと思っていた。もっと経験値を貯めたい。
 それにしてもまた帰ってくることができた。3日目にずぶ濡れで凍えながら、「こんな状態でも、また明後日には過去の事になっているんだろうな」と思っていた。今回もそうやって帰ってきた。人ってなかなか死なないし、結構いつまでも動けるもんだとつくづく思う。

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